トレーニングレポートvol.4 石井スポーツアルピニスト基金

2019-06-03


 
【1日目】
 
5月中旬、北アルプス北部の立山連峰にある剱岳にて、モンブラン登山に向けたトレーニングを行いました。
 
室堂に10時に集合。メンバー6名全員が元気な顔で揃いました。
 
今回の講師は以下ガイド
・国際山岳ガイド 角谷 道弘(Mt.石井スポーツ神戸三宮店)
・国際山岳ガイド 今井晋
・国際アスピランガイド 天野和明(登山学校長)
 

室堂の標高は2,450mと高いため、高度順応も兼ねてまずは室堂山荘裏の急な雪壁で雪上訓練を行いました。
内容は氷河歩行を想定したロープアップ(アンザイレン。互いにロープを結びあうこと)した状態からのクレバス転落➡引き上げ救助。
土のう袋や、Mt.石井スポーツのショッパーを雪中に埋めてのアンカーの強度がどれくらいあるかの強度テスト。キックステップ(アイゼンを付けずに靴を蹴りこんで行う雪上歩行テクニック)歩行、セルフアレスト(アックスを使った滑落停止)など。
 

その後、アバランチビーコン(雪崩対策用の送受信機)の作動チェックの後、既存のトレース(踏み跡)は使用せずに、メンバーが交代でトレースを作りながら別山乗越へと向かいます。
風が無く、暑いが順調に高度を稼ぎます。アルピニストを目指す彼ら、大学山岳部出身者的にはもっと追い込みたかったのですが、まあそこは徐々に(笑)
 

宿泊先の剱御前小屋に到着後も、雪上訓練を行う。ロープアップしてのランニングビレイ(中間支点)を設置しながらのコンテ歩行(同時登攀)、アンカーを作成してからのビレイ(確保)、スタンディングアックスビレイ(雪にアイスアックスなどを埋めて立ちながら行う確保方法)、スノーボラード(雪キノコ)での懸垂下降など。
 

天野登山学校の参加は2か月前の西穂高岳以来で、その時はロープのさばき方やカラビナの開け閉めなどもうまくできずに、非常に不安でしたが、それからは見違えるように成長していました。
前回の甲斐駒でも怒られ、トレーニングしてきた成果が目に見えるように出ていました。
メンバー間で翌日の行程、必要な装備、服装などを話しあい、天気もチェックし、起床1時、出発が2時と決まりました。
 
 
【2日目】

 
深夜2時、富山市内の夜景が良く見えていました。頭上には星が瞬き、気温も低くなく、風もなく、雪もそこまで硬化していなく、月は満月に近い、コンディションはかなり上々です。
 

アイゼン無しでも下れる硬さなため、キックステップで闇夜の剣沢を下降します。夜間の行動はヘッドランプの性能にかなり左右されます。夜間は落下物が見えないので急斜面の下などは気を付けないといけません。地形図を見ながら、平蔵谷の入り口も間違わずに見つけ、設計の薄い部分や落石に気を付けながら上部をめざしました。
 

上部の傾斜が急になってくるあたりで、氷河上での歩行を想定し、ロープアップしての行動のトレーニング。斜度があるため、スノーバーなどでランニングビレイを取りながらの同時行動。
地形を利用し、繰り返すごとにスピードも増していき、昨日のトレーニングの成果が出ていました。
 

カニのタテバイ下で休憩ののち、岩場もランニングビレイを取りながらのコンテ、一部テレインビレイ(地形を利用した確保)も交えつつ高度を稼ぎます。8時前には雪に埋もれた剱岳山頂(2,999m)に到着しました。風もなく、富山湾、日本のモンブラン(白山)、北方稜線~毛勝三山、後立山連峰、八ヶ岳、富士山、南アルプスなどが見渡せます。本番のモンブランも晴れると良いのですが!
 



記念撮影の後、コンテニュアスで下山。他に登山者もいなかったため、途中1ピッチ懸垂下降を交えて下ります。これはまだまだ慣れておらず、繰り返し練習が必要だ。雪の緩んだ平蔵谷はアイゼンを外し、高速シリセードで滑り降ります。スピードがコントロールできていれば、行動スピードを素早くできるテクニックです。途中で雪庇崩壊かブロックの落下に伴い、上部から流れてきたウエットルースアバランチ(湿雪点発生雪崩)の破壊力を目の前で見ながら、剣沢へと合流。

暑すぎる登り返しをこなし、剣沢小屋のコーラ!に癒され、剱御前小屋に帰着。リパッキングの後、雷鳥沢を下降、無事に室堂へと下山しました。

 

 

【天野登山学校校長の感想】
2か月前と比べたら著しく成長していました。特にロープワーク、チームワーク、考え方などなど。ただ経験が少ないため、まだまだ山の見方が浅い、想像力が足りない、ピンチには素早い対応が難しい、アイゼン歩行(フラットフッティング)が甘い、など課題はまだまだたくさんありますが、アルピニスト基金でモンブランを目指した他の160名の応募者のためにも当初の志を胸に、トレーニングを怠らずに向かっていって欲しいと思います。

 

 

メンバー所感

 

横平充雅

実技講習4回目は「岩と雪の殿堂」の異名を持つ剱岳。両日とも天候に恵まれ晴れ晴れした気持ちでトレーニングに臨めました。
 
1日目、玉殿岩屋周辺でスノーバーと土嚢(今回はビニール袋)を使用したアンカーの作製、強度の確認要領を学びました。作成したアンカーに今井ガイドと私の2人で体重をかけて引っ張ってみたところ、破壊されることなく十分な強度があることを身を以て確認、理解することができた。その後、滑落停止の練習と西穂高の時からトレーニングしているクレバスレスキューを実施し、それぞれ任務分担が明確にされ先行的に動けてスムーズにできていたと思う。今回までトレーニングを積んできたこと、かつ各々が自主トレ等で回数を重ねてきたので、一連の流れは概ね理解できているものと考える。しかし、約束された流れの中でできるのは、現段階ではできて当然だと思う。今後は不測事態に対応できるように、まずは個々の知識と技術をレベルアップさせる、そしてチームが事態に対し臨機に対応できるところまで追求していくことが必要だと考える。
 
剱御前小舎到着後、小舎の前の斜面で支点を取りながらのコンテ歩行を練習し、スノーボラードの作製要領を教授してもらった。器材がなくても適切に作製できれば懸垂下降や、ロワーダウン等できることを確認することができた。
 
1日目のトレーニングを終了し、夕食をとり器材整備、検討会で情報共有を実施した後、翌日のトレーニングに向け休息した。
 
2日目は1時起床、2時出発。本番も同時刻頃の出発が予期されることから、何となくではあるがイメージしながら準備を行った。定刻に出発し、風もなく月明かりに照らされた雪上を歩き出す。足の運びが少し軽い感じがした。
 
平蔵谷の雪の斜面を三人一組、アンザイレンで進む。支点を取り、都度前後交代しながら登りました。支点もスノーバーだけではなく、ショベルの柄を使って支点を作製するところもあり、安全確保のために使えるものは使い、危険地帯を速やかに通過する要領を学べた。その先のカニのたてばいでは、前回の甲斐駒ヶ岳で学んだ自然物や人工物を積極的に利用した確保を、ガイドの方からも助言を受けつつ各々が確実に実施して安全に登り、剱岳山頂に到着しました。
 
下山時も要所で確保を取りつつ慎重に下りました。ロープの送り出しやブレーキも先行者の動きにあわせて、動きを妨げないように連携を密にとる。相手を気遣いチームワークの真価が問われるのだと感じました。
 
少しずつではあるけど、着実に技量も知識も成長できていると感じます。教えてもらったことをしっかりと覚え、実践し概成の域まで、目標に掲げている「自立した登山者」になれるようにさらに研鑽していこうと思います。

 

 

宮下雪乃

今回の剣岳のトレーニングでは、滑落停止訓練、スノーバーを使ってのコンテニュアス歩行などを行いました。滑落停止訓練では、訓練だとわかっていてもうまく止まれなかったのでもう少し練習が必要だと感じました。また、いろいろな場面を想定しての滑落停止訓練も必要だと思います。
スノーバーを使ってのコンテニュアス歩行では、メンバー同士の声掛けや連携が大切です。スリングを使うことでスノーバーを抜けにくくすることを学びました。
 
今回のトレーニングでは、メンバーで話し合う機会が多くありました。ガイドの方に頼るのではなく、自分たちで判断し行動することが自立した登山者になるためには大切なことだと思いました。ガイドの方に「アンザイレンの時は運命共同体だ」と言われたことがとても頭に残っています。この言葉でメンバーの命を預かっているんだと改めて感じました。
 
反省点
カニのヨコバイの時に懸垂下降をしましたが、うまく降りれずもう少し練習が必要。
ビーコンのグループチェックのやり方をもう一度勉強が必要。
山頂から見える山の名前や尾根の名前を把握できてなかった。
次回のトレーニングでは今回習ったことがスムーズにこなせるように練習したいと思います。

 

 

沓脱彩子

第4回目となる剱岳のトレーニングは、全体的に何もかもが荘厳で、壮大で、自然の驚異に圧倒された二日間であった。室堂のロープウェイ駅を降りて、目の前に立ちはだかる立山連峰が現れた途端、人生で初めて立ち入る空間にただならぬものを感じた。300年の長きにわたり霊山と崇められ、数多くの修験者や登山家が訪れてきただけある。
という感想は置いておいて、今回のトレーニングではこれまで学んできたことがしっかり身についているか確認し、それらができた上で更に技術を習得・向上させるような場であった。
 
1日目は氷河を想定した引き上げ、滑落停止、スノーバーで確保する訓練を実施し、スノーボラードでの懸垂下降も教わった。引き上げ訓練では、マイクロトラクションと3分の1システムを活用し、短時間で効率よく救助する方法を復習。頭では理解したつもりでいても、実際に自らの手を動かしてやってみないと、習得しているのかどうかは分からない。いざというときにすぐ的確な行動ができるよう、トレーニングを継続して行う必要があると感じた。滑落停止訓練の際、角谷さんが「動きを体に染み込ませておくことが大事」とおっしゃっていたが、正にそのとおりだと思う。無意識に動くくらい体で覚えたことは、咄嗟の動作が速い。そのためには量をこなし、繰り返し、ただひたすらに練習する必要がある。滑落停止訓練のように雪山でないと練習できないものは、機会があるときにとことん取り組むようにしたい。
 
2日目は剱岳の頂上を目指し夜半に小舎を出発し、現在地と目的地を確認しながら進んだ。
地図を見て事前に地形を頭に入れておいたつもりだが、いざその場を歩いてみると想像と違ったところが出てくる。その誤差を修正し続けることで、行く行くは地形図を見ただけでぱっと立体図を頭に思い描けるようにしていきたい。平蔵のコル直下の急登では、3人一組になってスノーバーを使いながらスタカットで登った。前日に練習をしたが、実際に急登で使うとなると緊張感が全く異なる。このタイミングでのロープの使用を想定して夜明けの時間になるように、出発時間を設定できたのは良かった。このとき、私は3人の真ん中に入っていたので、スノーバーで確保を取り、回収するという練習があまりできなかった。次回スノーバーを使うときは、先頭か最後尾に位置したいと思う。
 
平蔵谷を登り切りコルについたら、すぐに岩場であるカニのたてばいだ。アイゼンを着けながら急な岩場を登るのは初めてだったので緊張したが、鎖や鉄の突起があったので、心に余裕を持つことができた。岩に近寄り過ぎると、次進むべき道が分からなくなってしまうので、岩から離れ客観的に岩場を観察する視点が必要だと感じた。下山時に、自分は雪上の下り道が怖いと感じてしまい苦手だったので、アイゼンの使い方を習得できるよう経験を積んでいきたい。また、快適にシリセードで滑っていたら危うく表層雪崩に巻き込まれそうになった。このときは上を見上げていたのですぐに気づくことができたが、普通に下山しているときだったらと思うとぞっとする。常に周囲を観察し変わったところがあったらすぐに感知・反応できるよう五感と判断力を磨いておくことは、アルピニストを目指すためには非常に大切な能力だと身をもって感じた。
 
来月は、最後の国内トレーニングである富士山に行く。モンブランの予行練習として、これまで学んだことを今一度復習し全部完璧にできるようにしてから、臨みたい。

 

 

榛葉都

先月の甲斐駒ケ岳でロープワーク、ビレイをとりながらメンバーが「安全に素早く上り下りする」ための、技術、地形などを含めた知識、判断力、経験値がまだまだ足りないと痛感したが、GWには一部都合があったメンバーと共に栃木の古賀志山で懸垂下降やロープワークのトレーニングをしたり、体力トレーニングに励んだりしたこともあってか、今回の劔岳ではじめて自分の中で少しの成長を感じることができた。
 
まだできていないことや新たに今回教わったこともあったが、例えば、何かのトレーニングをしている時に荷物を常に持って移動すること、地形や天候からその時必要なものを想定してそれらを全てザックに入れて携帯しておくことに気をつかうことができた。ロープワークもエイトノットはもちろん、きれいに束ねてザックにしまうという動作や懸垂下降の際のビレイも素早くできるようになった。剱岳は初めて行く山であったが、地形やルート、周囲の山々の情報、歴史的な情報など下調べも怠らなかった。山に向かう自分なりの準備をしっかりとすることができた。だからか、初めて教えてもらったことも、うまく行かなかったり迷ったりしたときも、以前はその状況が辛いと感じたが、全てが前向きに楽しいと感じられた山業だった。もっとたくさん学んで身につけて成長したいと思った。
 
もちろん課題もまだまだ。スノーバーでのアンカーはもっとしっかりやらねばだし、岩場の上り下りのビレイを取る場所は自分でここだと思うところは浮き石だったりすぐにはずれてしまったりと、ガイドの方から指導を受けることも多かった。登り方も1日目は焦ってみんなの歩幅に合わせようと足を開きすぎて、体重が乗り切っていないのに体を持ち上げようとして、ずるっと滑りおちてしまった。平蔵谷の急な登りはアイゼンでのフラットステップが出来ていない時もあった。全ての動作に焦らず一定のペースで、しっかりと踏み込んで行く。どんなときもベースを忘れては行けないし体に覚えさせないと、と改めて感じた。
 
あと残すトレーニングは1回。あっという間だと感じる一方で、自分の技術や知識、体力の不足さに打ちのめされた1回目のトレーニングからの成長の手応えも感じている。自分なりの努力も重ねて来た。一歩一歩、確実に少しずつでも貪欲に、メンバーとともに切磋琢磨しながら次のトレーニングを迎えたい。

 

 

石橋遥

劔岳でのトレーニングではこれまでのトレーニングで教えて頂いた技術やロープワークが少しずつ身についてきたと感じました。それらができるようになってきた分、余裕を持った登山ができたと思います。一方で、今回もできていない部分がいくつも出てきました。中には自分の悪い癖になってしまっていることもあるので、自分で意識して直していくしかないと感じました。
 
改善点
・自分がトップとして歩いている時の歩行速度・歩幅を他の人に合わせる。
・自分の限界が来る前にトップを交代する。
・滑落停止で足を雪面につけない(特にアイゼン着用時)。
・自分の手や腕の幅を知っておく。その幅を参考に素早くロープを出せるようにする。
・ピッケルを使ったビレイの仕方を覚える。
・常に周りを見て、落石等に注意する。
・支点は可能な限り埋設して踏み固める。
・どこで支点を取るのかを考える。(効率よくロープを使う、支点を取れるところで取る)
・ロープは常に綺麗に整理する。

 

 

西野尚美

今回のトレーニングは、まず感想として、とても楽しい山行でした。
今までは自分のできないことや分からないことなど、課題が山積で焦りや重い気持ちがのしかかる部分もありました。3回のトレーニングを経て、やっと自分の中で少し成長を感じることができ、体力面、技術面含めいろいろな余裕も生まれ、純粋に剱岳へ挑戦していることに充実感と楽しさを感じました。
また、立山は以前から雪の時期も夏の時期も何度も足を運んでいる場所なので、地形をある程度把握していることが意味をもったのではないかと思います。行ったことのある場所もない場所も、地形を事前に知っておくことの大切さを感じました。
 
2日目は初めてリーダーを経験しました。
出発前のビーコンチェックに始まり、夜中の2時から出発ということで、まだ暗い中メンバーに声かけして地形図を見ながら現在地を確認し、間違うことなく平蔵谷出合を見つけることができたことは自分の中の大きな成果です。落石や雪崩への注意を呼びかけたり、メンバーに異常がないか目を配らせたりと、状況を常に把握するよう努めたつもりでいましたが、ロープを出すタイミングを自分で決断できなかったことはまだまだ経験不足と痛感しました。
 
ロープワークも、何度か経験を積んだことや日々の練習の成果か、だいぶ使い方にも慣れてきました。なぜ必要なのかを自分で考え、行動することが少しはできるようになってきたのでないかと思います。これは、メンバー全員が実感していたように感じました。そのためか、今までのトレーニングに比べると皆がいきいきと動いているように見えました。
 
今回自分たちだけでアンザイレンを行ったり、出発時間や装備を話し合って決めたり、ルートを考えたりと、それぞれが自立した登山者を意識して行動できるようになってきたことに充実感を得ました。
 
ひとつ課題となったことは、アンザイレンをした時に真ん中に入ったまま位置を交代することなく終えてしまったので、トップの動きやスノーバーの使い方をあまり経験できなかったことです。滑落者引き上げ訓練も、滑落者役となったのでメンバーの動きを見ることができませんでした。なので、次の富士山トレーニングでは積極的にトップに入ったり、復習訓練を行っていきたいと思います。
 
まだまだ未熟であることは感じますが、講師の方々からも成長を感じるという言葉をいただき、ますます努力していきたいとモチベーションがあがっています。モンブランへの挑戦まで残りわずかになってきました。国内トレーニングも残すところあと1回となり、もっと学ぶ機会がほしいと思うくらいですが、残りのトレーニングでより多くのことを学べるよう向き合いたいと思います。

 

 

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