トレーニングレポートvol.2 石井スポーツアルピニスト基金

2019-03-25

3月中旬、長野県と岐阜県にまたがる「西穂高岳」にて、モンブラン登山に向けたトレーニングを行いました。

 

【1日目】

西穂ロープウェイ駅に集合し登山口へ。

 

今回の講師は
・石井スポーツ登山学校 天野校長
・山岳ガイド佐藤祐樹(Mt.石井スポーツ松本店)
・山岳ガイド奥田 仁一(Mt.石井スポーツ大阪本店)

 

そして、本番のモンブランにも参加予定の北海道在住国際ガイド
今井晋 氏の計4名で向かいます。

 

当初の予定では、西穂山荘に到着→雪上トレーニング でしたが
1日目は比較的天気が持ちそうなため、本日中に独標まで行くこととし
2日目は悪天候が予想されるため、西穂頂上をあきらめ、山小屋周辺でのトレーニング…と予定を切り替えることに。

トレーニング日の数日前から結構な降雪があったため、雪の量自体は多いが、人気の山であるためトレース(※)はしっかりついていました。

 

1日目リーダー役の横平さんは、職業柄もあり素晴らしいリーダーシップぶりを発揮し、てきぱきと的確な指示を飛ばします。

 

1時間ほどで西穂山荘に到着。身支度と装備を整え、小屋へは入らずそのまま独標に向かいます。
雪も降ったりやんだりを繰り返します。ガスの中登行するが、独標の直前でガスが晴れました。

 


独標直下でアンザイレン(※)し、予定通り登頂し引き返します。

 

往復2時間と少しで西穂山荘に帰着。小屋の中に場所を移し、引き続きロープワークのトレーニングを2時間ほど行い1日目は終了。

 


夜は懇親会となりました。

 

【2日目】

 

まずは出発前に行うビーコンのグループチェックの正しい方法を講習。
その後、山荘前のテント場 奥の急斜面を利用し、クレバスレスキューの訓練。前回の八ヶ岳では体験程度でしたが、今回は一連の流れをしっかりと訓練します。
前回同様ロープの取り扱い、ギアの出し入れがまだまだ不十分で、今後も継続した練習が必要そうです。

 

クレバスレスキューは、ヨーロッパでのガイド経験豊富な今井氏が中心となって

 

・支点の構築
・周りに仲間がいることを前提とした2/1システムでの引き上げ
・ロープワーク
・ギアの解説

 

等していただきました。

 

次に天野校長がビーコン捜索のお手本を、解説を交え講習し、その後参加者が一人づつ2個埋めたビーコンを捜索→プロービング(※)→掘り出すという練習を繰り返しました。

 

最後にこれらトレーニングの間に佐藤ガイドがせっせと掘ってくれた、雪洞とイグルー(※)を見学し、構築の方法を学びました。

 

 

 

トレーニングの中には、直接モンブラン登山では必要のないものも含んでいる。
だが、この企画自体はモンブランに登頂することが目的ではなく「自立した登山者を育成する」ということが本来の目的であるので、今後もこの方針に則ってしっかりとトレーニングを積んでいきたいと思います。

 


※トレース
先行者の踏み跡のこと。積雪期の雪山登山では、先行者登山者がいた場合はトレースができており、そのトレースに沿って歩くことができるので、体力が温存できる。

 

※アンザレイン
登山者が岩壁などを登る際に、安全のために互いにザイル(登山用ロープ)で身体を結び合うこと。

 

※プロービング
誰かが雪崩に埋まった時に、棒(プローブ)を雪に突き刺して埋没場所を確定すること。積雪の状態を確認するため、積雪深を測るときにも行う。

 

※雪洞とイグルー
雪洞…積雪期の登山で、露営のために雪を掘って作った横穴。
イグルー…イヌイットやエスキモーの冬季の間の住処として伝統的に作られてきた雪の家。「かまくら」に似ているが作り方が異なり、ブロック状にした圧縮雪を積み重ねて壁を作っていく。

 

 

メンバー所感

 

宮下雪乃

初めての西穂高岳だったので、頂上まで行けなかったことは残念でした。独標からの下山中、鼻の辺りが凍傷の前兆のような症状がでてしまいました。佐藤ガイドに言われるまでは気づきませんでした。自分が気づかないうちに症状が出てしまうので周りの人とお互いチェックしあうことが重要だと思いました。
歩くとき先頭の人は、皆の命をあずかっているのでしっかりとルートを見て進む、先頭の時自分が歩きやすいところを歩く、そうすれば後ろにいる皆も歩きやすくなることや、アンザイレンの状態でロープをたるませて歩くと滑落したときの衝撃が強くなるので張った状態で歩くことを教えていただきとても勉強になりました。
クレバス救出訓練、ビーコンを使用し雪崩を想定しての捜索訓練、雪洞の掘り方、ロープワークの練習などを行い、前回トレーニングで教えてもらったことができなかったこともあるので、練習がもっと必要だと感じました。
自分たちがアルピニスト基金に参加しているということに自覚をもっと持ってトレーニングにはげみたいと思います。

 
 

横平充雅

実技講習1日目は西穂山荘から独標までの往復で歩行訓練、独標手前からアンザイレンでのコンテニュアス歩行を実施した。当初は2日目に計画されていたが、天候悪化が予想されていたため両日のスケジュールを入れ替えての訓練となった。アンザイレン歩行ではお互いのリズム、呼吸を合わせてロープを過度に弛ませないようにと指導を受けた。他にも足の運び方、急斜面の登り方、歩きやすそうでも危険だったら巻いていく、先頭を歩く者は全員の命を握っている責任を持つこと等、適所でいろいろなアドバイスをいただいた。初日は前記の他、山荘に戻って来てロープワークを実施した。結びの一つ一つを迅速かつ確実にできるように日々練習しなければならないと、出来の悪さを痛感した。

 

2日目は雪上での支点構築、雪崩ビーコン捜索、クレバスレスキューを実施した。支点構築においては荷重の掛かる壁の強度がとても重要であり、何度も作製して感覚を掴んだ。雪崩ビーコン捜索、クレバスレスキューは時間との戦いでもあり、全体の流れを把握し、だれが何をするのか、すべきなのか理解し動けなければいけない。実地における訓練は限りがあるので、日々イメージアップし整理しておくのが重要である。
限られた時間の中でより実のあるトレーニングになるように夕食後にAAR(After Action Review 事後検討会)を実施した。個人的にガイドから教えてもらった事や、失敗した事、できなかった事、気づいたこと等をざっくばらんに意見を出し合い、情報を共有することにより技術の理解、知識の拡充ができたと思料する。
今回、リーダーをやらせてもらい時間管理、行動間におけるメンバーの体調管理及び装備装着状況の点検等の統制を執った。装備点検時、天野さんから「細かいところまで気を配るように。」と指導を受けた。チャックを締めていない、ハーネスの端末処理がなされていない等々、何気ないことかもしれないが、その何気ない所までも気が配れないようだと安全にも気が配れていない、目が行き届いていないことにつながるので、端正なたたずまいを常に心がけ実践していかなければならない。併せて、相互確認する際も抜けのない点検を今後も実施していく。

 
 

沓脱彩子

第2回目のトレーニングに参加して、強く印象に残っているのは、「神は細部に宿る」ということだ。小さなことを疎かにしてはならない。
最後の最後まで油断せず、些細なことまで気を配れるかどうかが、アルピニストには必要だと学んだ。
ジャケットのチャック、ハーネスに取り付けたシュリンゲの長さ、アイゼンの紐の締め具合、パッキングの仕方等、一つ一つをとったら小さなことであるが、過酷な世界ではこれらのミスが命取りにあることもあり得る。
できる限りミスの発生源を根こそぎ取り除き、集中すべきことに集中しなければならない。
それが、自分自身とひいてはメンバー全員の安全確保につながる。
そして、西穂独標に向かう途中、先頭を歩いていたときに今井さんに言われたことが印象に残っている。
「リーダーなんだから、ペース配分に気を付けなきゃ。メンバーの安全に対して責任を負っているのだから」
リーダー、アルピニスト、自立した登山者、それぞれの言葉は違えど目指すところは同じだ。今回は4名のガイドさんに同行いただいたことで、その真髄が少しずつではあるが見えてきたような気がする。
あとはそこに着実に近づけるよう意識しながら、日々トレーニングを重ねていきたい。

 
 

榛葉都

冬の西穂高岳には行ったことがなかった上、ビーコンやスコップ、ロープなどを新調しての、初めての実践の場となるので、非常に緊張した気持ちを抱えたままトレーニングへの参加となった。まず、前回の八ヶ岳登山において取り組む姿勢において自分に甘えがあり、自分の立場の自覚を欠く行動をとってしまったこともあって、今回はそのようなことがないよう、メンバー及びガイドの方に対しても声を掛け合って、わからないこと、不安なことは声に出して共有する、早め早めの行動をとることを意識した。新しい学びとしては、クレバスレスキューの方法(実際に事態が起きた時に自分が何をすべきか行動ができるようにその流れと、アンカーの作り方、ロープワーク及びマイクロトラクションの使い方頭に叩き込む)、雪崩ビーコントレーニング(ビーコンの正確な使用法、プローブの使い方、スコップでのレスキュー方法)、雪洞やイグルーについてもレクチャーを受けた。この3トレーニングでは、自らの知識と技術はもちろん、仲間とのコミュニケーションや仲間を信じた上で自分がどう動くか、チーム全体のベストを考えて次に何をするか、常にそれを考えねばならないのだと感じた。一方で課題は非常にたくさんあり、まずはロープワーク。八の字結びしかできないまま臨んでしまった自分が恥ずかしかった。次に、先頭に任せて自らルートを考えていない甘さ。自分1人でもルートを見極められるよう、方位をとり、地形を見て、歩く場所も判断しなければならない。そして、今回最も感じたのは体力。マイペースで歩き(走り)続けるのは訓練して来たつもりであったが、パワーが足りない。ラッセルの中ある程度のスピードで進む。重い荷物を持って力強く歩みを進める。歩幅が他の人より小さい分、早く、強く、前に、進めるようにせねばならない。それが、周りに気を配ったり、ルートを考えたり、そうした心の余裕を生むためのベースとなる。強い意志と自覚を持って、負荷をかけてもっともっと強いベースを作らねばならないと感じた。

 
 

石橋遥

西穂高岳でのトレーニングでは前回な八ヶ岳で学んだことをさらに発展させ、クレバスレスキューやビーコンを使った捜索などの訓練を行いました。どちらも正確性とスピードを求められる技術で、その場に応じた対応が必要であることが分かりました。西穂高岳までの登山では悪天候のため西穂高独標までの登山に変更となってしまい、本来の目的であった岩稜登攀はあまり出来ませんでしたが、悪天候下において自分たちの位置と下山のためのルートの把握することの難しさと大切さを学ぶことが出来ました。

 

改善点
・クレバスレスキューやビーコンを使った捜索では正確性とスピードが求められるため、メンバー間で常にコミュニケーションを取りながらその場に応じた対応をする。
・一つ一つの動きの無駄を省き、作業を速く、正確に行う。
・常に先を見据えて行動をする。要救助者だけでなく救助者の安全も必ず確保する。
・常に周辺を観察し、雪庇などの危険な場所には近づかないようにする(特に悪天候時は気づきにくい)。また周辺の地形や方位を確認し、常に自分たちの現在位置と今後のルートを確認する。

 

今後も技術だけでなく山に対する考え方や精神面・体力面での成長ができるよう、他のメンバーやガイドの方々から沢山のことを学んでいきたいです。

 
 

西野尚美

両日とも天候が良くなく、雪が降る冬に逆戻りしたような寒い日でした。
登山としては決してコンディションのいい日ではありませんでしたが、快晴だった八ヶ岳トレーニングとは正反対の天気で、前回学べなかったことを多く学べる機会となりました。
厳しい環境下では、いかにささいなことが命取りになるか、細かいところも気にかけることや、気にかけるゆとりを持てるようにすること、自分だけではなくメンバー同士をよく観察して気にかけることなど、実践を通じて知ることができたと思います。
コンディションのいい日ばかり選んでいては力はつかないということを実感しました。
また、トップを交代しながら進む場面では、ついつい今井ガイドに正解のルートを聞いてしまいがちだったのですが、「人に聞かない。自分がトップの時は自分で道を見つけること。ダメだと思った時には引き返して探し直せばいい。ロープを出すかどうかも自分で決めること。」とアドバイスを頂き、トップの責任の重大さ、そして山に向き合う心構えを教えてもらった気がします。
前回のトレーニング、そして今回のトレーニングを通じて、プロのガイド陣からたくさんの考え方や言葉をもらい、どれもが新しい発見となっています。
このような素晴らしい機会はまたとないことだと、あらためて嬉しく思っています。
技術面もさることながら、割と大丈夫だと思っていた体力面もまだまだ強化が必要なことが分かり、国内トレーニングがあと3回しかないことに焦りを感じています。
メンバーに選ばれたことを嬉しく思いながらも、やらなければならないことが自分の中で固まりきらずにいましたが、2回のトレーニングを通じて少しずつ明確な目標として見えてきました。
そして、目標の山に登るために努力する姿勢をガイド陣から学ぶとこもでき、山行トレーニングだけではなく日常生活においても積極的に意識したトレーニングを取り入れていきたいと思っています。あと3回の国内トレーニングですが、ガイド陣のお話も、もっとたくさんお聞きしたいと思っています。

 

 

 

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