雪山登山をこれから始めたい方に向けて、石井スポーツスタッフが雪山基本装備や心構え、おすすめコースをご紹介します!
一面の銀世界の中、静寂が支配する雪山登山は、喧騒の夏山とはまた違った山登りの醍醐味を味わうことができます。
雪山は様々な道具を駆使して歩く・登る楽しみというものがあり、例えばアイゼンを登山靴に装着してピッケルを持って斜面を登ったり、トレースの無い道をワカンを使って切り開いたり、スノーシューを装着して解放感のある雪原をハイキングしたり……。このように、雪山登山ならではの冒険感や達成感を味わえるのも魅力の一つです。
また、装備・経験・技術が伴ってくれば、稜線歩きを伴った縦走や、雪を利用したテント設営や雪洞を作ることだって可能になります。そういう点で言えば夏山以上に「自由」と言えます。
そして何より、雪山の織り成す景色というのは、言葉では言い表せないくらいの素晴らしさと感動を我々登山者に与えてくれるのです。
このページでは、雪山登山に興味がある方向けに基本的な装備や心構えを解説したものになります。ぜひ参考にして頂き、素晴らしき雪山登山の世界に足踏み入れてみて下さい。
雪山は夏山以上に天候・気象条件に左右されやすいです。
同じルートでも風が弱くて晴天の日と、風が強い日や吹雪いている日では、体感温度や体力の消耗具合、目的地までの所要時間がまるで違ってきます。
大雪で一夜にしてルートの状況ががらりと変わることもありますし、樹林帯と稜線の温度差や急な天候の変化も日常茶飯事です。
そんな厳しさの面も確かにある雪山登山において大事なことは、登る雪山の状況や難易度に応じてアイゼンやピッケル、各種防寒対策など雪山ギア・ウェアを抜かりなく準備して、無理のない登山計画を立てて、万全の体調で臨むことなのです。
はじめての方は、道具の使い方や雪山に対する知識のところで不安もあると思います。その場合は本ページを参照して頂く他にも、石井スポーツ各店の経験豊富なスタッフによるアドバイスや、登山学校での各種講習を上手に活用して頂き、雪山登山を安心安全に楽しまれることをおすすめいたします。
→石井スポーツ登山学校HPはこちら
まずは自分が、どのような季節にどのような雪山に登りたいのかをイメージしながら装備を選んでいくのがポイントです。
樹林帯中心の気象が穏やかな雪山ハイキングや雪原でのスノーシューハイクであれば、ピッケルよりもトレッキングポールが活躍しますし、夏山装備の一部(例えばレインウェア)も、天気や気温等に恵まれればという条件付きですがそのまま使える場合もあります。
一方で森林限界を超えるような高山や稜線歩きを伴った本格的な雪山登山、より条件が厳しくなる厳冬期(1月~2月)を中心に様々な雪山に登りたいのであれば、ウィンターマウンテンブーツや10・12本爪アイゼン、ピッケル、ハードシェル、バラクラバなどの雪山専用装備が必須となっていきます。
最初のうちは、好天の日を狙って初級の雪山を無理のない範囲で経験していきながら、以下に掲載している雪山基本装備リストのアイテムを徐々に揃えていくようにするのがおすすめです。
そして雪山登山に慣れてきたら、ご自身が目標とする雪山や山行スタイルを意識した装備も追加していくと、活動範囲や活動時期を広げることが出来ます。
【参考】装備イメージ例
山行スタイル例 | 装備のイメージ例※ |
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雪原でスノシューハイク(初級) | 夏山登山装備に防寒着をプラス。濡れないようにレインウェアも必ず。登山靴や剛性の高い防寒ブーツ+スノーシュー+ダブルストック。 |
北横岳に日帰り登山(初級) | 6本爪以上のアイゼン+ダブルストック(念のためピッケルも)靴は出来れば雪山用登山靴を。標高が高いので防寒対策は万全に。 |
赤岳に厳冬期小屋泊(中級) | 雪山用登山靴+前爪付き(10・12本爪)アイゼン、ピッケルは必須。アプローチ用にチェーンスパイク(チェーンアイゼン)やワカンがあると尚良い。 |
アイスクライミング | 基本の雪山装備に、登攀専用装備(縦爪アイゼン、アイスアックス、ヘルメット、グローブ、クライミング道具)待機中寒いので防寒対策も。 |
残雪期登山(4月~5月) | アイゼン、ピッケルはまだまだ必要な場合も多い。登山靴は夏靴でも大丈夫になるがその場合は剛性の高いアイゼン対応の靴を選ぶこと。 |
※あくまでイメージです。この他にも装備は必要になりますし、時期や天候によっても必要装備は異なります。
雪山登山で使用する装備はどのようなものがあるのか、これから雪山装備を揃えていきたい方向けに押さえておきたい基本の雪山ギアを簡単なポイント解説を交えてご紹介します。
※夏山登山と共通する装備は省略しています(例:地図やヘッドライト、ツェルトなど)
続いて、ウェア類の雪山基本装備のご紹介します!ウェアリングの基本的な考え方は無雪期と同じで、レイヤリング(アウター+ミドルレイヤー+ベースレイヤーを重ね着)をして、状況に応じて着脱をしながら調整していきます。
雪山を登るのになぜ雪山用登山靴(ウィンターマウンテンブーツ)が必要なのでしょうか?夏山で履いている登山靴では駄目なのでしょうか?
一番の理由は寒さから足元を守ることにあります。雪山用登山靴は保温材が封入されているため、夏山用に比べて高い保温力を発揮します。靴を介して常に雪面に触れている足は冷えやすく、手のようにすぐさま追加で保温ができる訳でもないため、備えが不十分ですと最悪凍傷になる恐れも考えられます。
また、アイゼンの使用や雪面につま先を蹴り込むこと(キックステップ)を想定した設計なので、ソールも硬く作られていてアイゼンが外れにくく着地の際や蹴り込む時に足にかかる衝撃からしっかり守ってくれます。
サイズ選びについては、夏山用登山靴と同じくつま先先端部にゆとりがあるサイズ、足長の実測値+1cm~1.5cmを一つの目安とします(あくまで目安です)
実際に履く靴下を着用して足を入れて、靴紐をほどいた状態でつま先を靴の先端部に寄せて、かかとに指が1本入るくらいがちょうどいいサイズとなります。
履く靴下が夏よりも厚手になることで足のボリュームが増したり、モデルにより足入れの感じやフィット感は異なりますので、石井スポーツ各店でスタッフに相談しながら試し履きをして決めるのもおすすめです。
安心安全に雪山登山を楽しむなら雪山用登山靴を必ず履いていくべきですが、どうしても夏山用登山靴で登るのであれば、ソールが硬くてアイゼンの装着も可能なマウンテンブーツを選ぶようにして、コースは風が弱く穏やかな樹林帯の初級の雪山を選び、そのうえで好天の日(気温が高く風が弱い日)を狙って登るようにして下さい。
アイゼン選びにおいては以下のポイントを押さえておきましょう。
①爪の本数や形状により、使うべきシーンは異なる。
②登山靴との相性も、選ぶ上で重要になる。
③固定方法や素材の違いでも種類が分かれる。
本格的な雪山登山では、雪や氷の斜面を確実に捉えるために前爪がある10本~12本爪アイゼンが必須となります。
登山靴のサイズや、前後コバの有無、ソールの形状等に応じて爪の本数や固定方法(バンド式、ワンタッチ式、セミワンタッチ式)の選択も異なってきますし、素材(クロモリやアルミ、ステンレス)の違いで強度や軽さが違うなど、似たような形状が多いアイゼンですが、細かく種類が分かれています。
履く登山靴との相性も重要で、相性の良いものを選べば歩きやすく、アイゼンも外れにくくなって安全性も向上します。
はじめてアイゼン選ぶ場合は、ご自身だけで判断するのは中々難しいこともあります。その際は、石井スポーツ各店のスタッフにお気軽にご相談下さい。→石井スポーツ店舗情報はこちらから。
また、以下に爪の本数の違いによるアイゼンの種類と特徴を簡単にまとめてみましたので、あわせて参考になさって下さい。
ここではアイゼンを爪の本数ごとに代表的な4つの種類に分類して、それぞれの特徴を簡単に解説いたします。
アイゼン取り使い商品一覧はこちらをご覧ください。
【10本・12本爪】
前爪が2本飛び出している10本・12本爪アイゼンは、本格的な雪山登山に必要不可欠なアイゼンです。12本爪の方が制動力はありますが、靴のサイズが小さい方は10本爪アイゼンの方が歩きやすい場合もあります。 靴との相性や細かな仕様の違い、装着方法については石井スポーツ各店舗でサポートしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
【軽アイゼン】
主に6本爪アイゼンのことを指します。10本・12本爪アイゼンと違い前爪が無いため、急斜面や稜線上の凍った斜面でつま先で蹴り込めないので使いどころを見誤らないようにしましょう。 主に夏の北アルプスの雪渓や、初冬期・残雪期の雪山低山、雪の積もった緩斜面等で使用されます。
【簡易アイゼン】
主に4本爪や5本爪アイゼンのことを指します。装着範囲は土踏まず真下辺りのごく狭い範囲のみなので制動力は弱いです。 軽量・コンパクトなので、ひょっとしたら日陰は雪があるかもしれない、と言ったような雪の少ない山域で「念のため」ザックに入れておく。と言った使い方が基本となります。
【チェーンスパイク】
凍結した平坦部・緩斜面の林道や、雪道と夏道が混ざり合ったようなアイゼンでは歩きにくいシーンで力を発揮します。 爪の長さが短く歩きやすい一方で、雪や氷の急斜面の登下降で使うには制動力・耐久性ともに不十分です。本格的な雪山登山で使うアイゼンの代わりにはなりませんので、使い方を誤らないようご注意ください。
ピッケルを選ぶ際は「ピッケルの長さ」と「形状や強度」を意識してみましょう。
70cm前後と長くてシャフトが真っすぐ(ストレートシャフト)のタイプは杖として歩行の補助で使いやすいですし、50cm~60cmくらいのやや短めでシャフトが曲がっているタイプ(ベントシャフト)の方が、急斜面でのピック、スパイクの刺しやすさや取り回しの面で扱いやすくなります。
ヘッドやシャフトに「B」や「T」のマークが記されている場合は、それは強度を示すマークで「T」の方がよりテクニカルな使用に適していますが、一般ルートを歩く場合での使用ならば「B」の方でも十分です。
運用法で言えばトレッキングポールとの併用もおすすめで、樹林帯や緩斜面ではトレッキングポールを、稜線や急斜面ではピッケルをと、シーンに応じて使い分けると歩きやすくなります。その場合はピッケルはそこまで長くなくていいのでもちろん身長にもよりますが、50~60cmくらいのものが併用する場合は使いやすいと言えます。
→ピッケル商品一覧はこちら
→ピッケルアクセサリーの解説はこちら
長さや形状により使い勝手がやや異なるピッケルの中から、4点をピックアップしてご紹介いたします。
ピッケル取り使い商品一覧はこちらをご覧ください。
雪山登山は夏季の安定した土の地面と違い、直近の降雪状況やトレースの有無等で当日のルートの状況は大きく変わってきます。
もし膝や腰まで体が埋まるような深雪・軟雪の状況に出くわしたら、いくらアイゼンを装着していても体が沈んでしまい、一歩一歩足を引き抜いて先に進んでいくのはとても大変で時間がかかってしまいます。
そのような状況下でも機動力を損なわないようにするためには、ワカンやスノーシューを装着して浮力を得るのがおすすめです。
両者の違いですが、スノーシューの方がより大きな浮力を得ることができて深雪でも沈みにくい一方、ボディーが大型で登山での急斜面での取り回しや重量・携行性の面でやや劣る、
ワカンの方が軽量で小回りが効いて登下降での取り回しに優れる一方、浮力の面ではスノーシューには劣る。と言った形です。
使用するフィールドに応じて多少得意不得意はありますが、どちらを選ぶにせよ持っていれば選択肢が広がり歩ける山域も増えるので、色々な雪山に登りたい方は持っておいて損はないギアとなっています。
→ワカン&スノーシュー商品一覧はこちらから
はじめての雪山登山を、安心安全に楽しむために心がけたい5つのポイントをご紹介いたします。
道迷いのリスクや、雪山装備の使い方が分からなくなった時のために、
出来れば登りたい雪山を経験したことのある方と一緒に登ると安心です。
雪の上を歩くというのは、夏道よりも足をとられやすく時間がかかります。
余裕を持った登山計画を立てて、早出早着を心がけるようにしましょう。
雪山は一夜にして大雪が降り、数日前とは全く違う姿になることも。
情報収集・確認は直前までしっかり行って、装備や計画に不備がないようにしましょう。
道具は使いこなしてこそ。アイゼンの着脱でもたつくと時間に余裕が無くなります。
グローブをしたままでも装着できるように事前練習や確認をお忘れなく。
なるべく晴れていて風の弱い日を狙うのが成功の秘訣。
途中で天気が悪くなってきたり、体調が優れない場合は無理せず引き返しましょう。
雪山にはじめて登るという方や、初級の雪山をお探しの方に向けたおすすめコースのご紹介です。
※雪山用登山靴やアイゼン等の雪山ギアの使用を想定したうえでのコース紹介です(例えば厳冬期でも雪があまり積もらないような山は選外としております)
※比較的登りやすい雪山とは言え、時期や気象条件次第で難易度が上がる場合もあります。必ず最新情報をご確認のうえ、準備・体調は万全にしてお出かけください。
コース:北八ヶ岳ロープウェイ山頂駅~坪庭~北横岳ヒュッテ~山頂~(ピストン)
難易度:体力★ 技術★ (5段階評価)
多くのガイドブックで雪山エントリーコースとして紹介されている人気の山です。
北八ヶ岳ロープウェイで標高約2,230m地点まで上がり、そこからスタートなので山頂までの距離も登る量も短く、多くが樹林帯で道も明瞭、危険個所もほとんどないため雪山をはじめて歩く方のアイゼン歩行の練習にもうってつけです。また、山頂周辺からの見晴らしの良い景色や道中の「坪庭」の庭園の景観は申し分ありません。坪庭周辺の散策もおすすめです。
装備については、道はよく踏まれているので軽アイゼン(6本爪)でも登れますが、前爪付きアイゼン(10~12本爪)の方が一部の斜度がある登り下りで安心です。ピッケルよりはトレッキングポールが活躍します。
いくら難易度が低めとは言え標高が高いので、天候や風の強さ次第ではかなり冷え込むこともあります。グローブやネックウォーマー、バラクラバ、保温ボトルなど防寒対策は怠らないようにして下さい。また、事前にアイゼンの着脱の練習をしておくのをお忘れなく。
コース:黒檜山登山口~黒檜山~駒ヶ岳~駒ヶ岳登山口
難易度:体力★★ 技術★ (5段階評価)
関東の名山、赤城山もアクセスの良さから人気の雪山の一つで、主峰の黒檜山に登るこのコースで4時間程の山行を組むことができます。
黒檜山登山口からの登りはトレースはしっかりしていますが、短いながらも歯応えのある急斜面もありますので前爪付きアイゼンの方が安定します。また、ピッケルよりはトレッキングポールが活躍します。山頂から直ぐの展望台からの景色も素晴らしいです。
黒檜山山頂から駒ヶ岳へは気持ちのいい縦走路が続きますが、積雪が多い場合はワカンが活躍する場合もありますので持っていってもよいでしょう。駒ヶ岳からの下りでは鉄階段が2箇所ありますので、転倒しないように慎重に通過しましょう。駒ヶ岳登山口まで下りれば車道に出てゴールです。
アイゼンやワカンなど装備のテスト、訓練をするのにも丁度いい山だと思います。
コース:高峰高原ビジターセンター~表コース~トーミの頭~黒斑山~トーミの頭~中コース~高峰高原ビジターセンター
難易度:体力★★ 技術★ (5段階評価)
日本百名山で活火山の、浅間山の第一外輪山である黒斑山(くろふやま)は、冬季もよく登られる山の一つです。スタート地点の高峰高原が2,000m地点にあるため、そこまで登る量も多くなく往復3~4時間程度の山行を組むことが出来ます。山頂へは表コースと中コースの2つありますが、往路は途中で景色が開ける表コースがおすすめです。山頂周辺は木立が多いですが、浅間山がよく見えます。時期や積雪量にもよりますが、ワカンやスノーシューがあると復路で中コースを歩くのが楽しくなります。
装備は軽アイゼンで登れないことはないですが、道中のトーミの頭付近の急登などを考えると前爪付きアイゼン+雪山用登山靴が安定します。
ちなみに、黒斑山から先に続く蛇骨岳や仙人岳へ稜線の縦走路は、一段階難易度が上がりますので、安易な気持ちで進むのは止めましょう。雪山にまだ不慣れなら素直に黒斑山ピストンがおすすめです。
コース:新穂高ロープウェイ西穂高口~西穂山荘~西穂丸山~西穂独標~(ピストン)
難易度:体力★★ 技術★★ (丸山までの場合:体力★★ 技術★) (5段階評価)
上記3つのコースよりはやや難易度が上がりますが、北アルプスの雪山入門として人気の山です。
新穂高ロープウェイを使って標高約2,150m地点からスタートします。最初は穏やかな樹林帯の中を登っていきますが、時期や直近の降雪次第では深雪になることもあるのでワカンが活躍する場合もあります。西穂山荘から先は絶景の稜線歩きとなりますが、それまでの環境とは打って変わって風が強く体感温度もぐっと下がります。バラクラバやオーバーグローブなど万全の防寒・防風対策に加え、雪山用登山靴に前爪付きアイゼンやピッケルは必須、ヘルメットやゴーグルも用意した方が安心です。
西穂独標直下の岩混じりの急斜面は、短いながらも登下降時に確実なアイゼンワークが必要となるため、不安な方や装備が不十分な方、天候が悪い場合等は手前の西穂丸山までにすることをおすすめいたします。