モデルでフィールドナビゲーターの仲川希良(以下、仲川)が、気になる登山アイテムの秘密にせまる企画「仲川希良が聞いてみた!」。今回はミレー(Millet)のロングセラーバックパック「サースフェーシリーズ」で、4年ぶりにフルリニューアルし、この春から発売となった「サースフェー ネクスト(SAAS FEE NX)」について掘り下げていく。教えてくれるのはミレーでマーケティングを担当している林 勲さん(以下、林)。前モデルも知っている仲川さんが気になったのはその見た目。まずはデザインについて聞いていった。
仲川
こちらがフルモデルチェンジしたサースフェー ネクストですか。前モデルと印象が変わりましたね。ぱっと目につくところだとロゴの感じが変わったような……。
いい点に気づきましたね。ここは新しいサースフェーの大きな変更点のひとつでもあります。今まではプリントだったのが、刺繍に変更になりました。
林
仲川
それはデザイン的に大きな変化だと思うのですが、なぜなのでしょう?
正確には「プリントできなかった」なんです。いままでの生地からさらにシリコン加工を施し、撥水性を持たせたんです。たとえば車のフロントガラスに塗る撥水剤。あれもシリコンですね。初期のサンプルではプリントでしたが、山を歩いているとどんどん取れていっちゃって……。すぐにプリントから刺繍へ変更しました。
林
ブランドロゴは従来のプリントから高級感のある刺繍ロゴに変更
仲川
撥水というと、だんだんと効果が落ちていってしまう印象があるんですが。
サースフェーのシリコン加工は、長期間使っていても効果が落ちないっていうのが、いちばんの特徴です。さらに防水性も持ち合わせているので、外部からの濡れにはかなり強くなりました。ちなみに耐水圧は1,500mm以上。バックパックについている一般的なレインカバーと同程度です。しかし縫製箇所があり、シーム処理もしていないため、染み込んでくる可能性もあります。そのため、いままでどおりレインカバーが付属しています。
林
高い撥水性能に加え、標準でレインカバーが付属しているのはうれしい。
もうひとつ大きく変わったポイントがあります。従来のモデルとくらべて縫製という点で気がつくところありませんか?
林
仲川
ん〜……、前のモデルはグレーの生地があるけれど、新しいモデルにはないですね。あれ? ここ縫われてない!
新モデルでは1枚生地を採用。縫製部分からの水分の染み込みを抑え、よりクリーンな表情に仕上がっている
従来は5枚のパーツを縫製でつなぎ合わせていたのを、新しいものはぐるっと1周、1枚生地で仕上げています。これによって縫製箇所が減って、水分の染み込みを抑えています。ちなみに雨蓋の刺繍は裏地を当てていますし、ポケットに干渉しないようになっているので、刺繍部分から中に水分が侵入してくるのを防いでいます。
林
仲川
縫製部分以外にもこまかく見ると、ストラップの幅が太くなっていたり、ジッパータブが大きくなっていますよね。大きいタブってうれしいです。雪のときにグローブしてても持ちやすくて。
サースフェーネクストは今回のフルリニューアルで大きく3つの機能をアップデートさせている。そのうちのひとつが「ドライ」。ドライという点において、ミレーは快適で安全に登山ができるよう「POWER OF DRY」という理念を提案している。登山にとって“濡れ”は大敵で、濡れたままでいると体が冷え、体力がうばわれていってしまう。サースフェーシリーズはこの「POWER OF DRY」を体現するアイテムのうちのひとつであり、ネクストではドライな状態に保つためのさらなる進化がなされた。
バックパックの“濡れ”の外的要因のひとつは雨。これは、いまお話ししたシリコン加工や、縫製部分を減らすことで対応しています。ほかにもうひとつ、外的要因ってなんだと思いますか?
林
仲川
汗なんです。サースフェーは汗処理能力がとても高くミレーは汗や雨といった濡れに対して、いかにウェア内環境を一定に保てるかということをすごく考えて商品開発をしています。
林
仲川
そこまでドライにこだわっているのは知らなかったです。わたし、腰のあたりに汗をかくことが苦手で。この腰部分に隙間があると、すごくホッとするんです。
ここは空気の通り道でメッシュにしていますね。それ以外のウエストであったり、背中であったり、ここは荷重を分散させてあげるためには、しっかりと体に付いていてくれたほうがいいんです。当然、体が付いている部分っていうのは汗をかきますし、かいた汗をバックパックが吸ってしまいます。その吸った汗をうまく吐き出してあげるっていうのが重要。このメッシュは空気の通り道をつくってあげて、汗をなるべく早く乾かす。しかし、かなりの面が体に付いてしまっているので、やはりここの汗処理も考えてあげなきゃいけない。そこで、われわれが採用しているのがこのフォームです。
林
サースフェーの背面システムの特徴の一つ「フィルターフォーム」
仲川
触ってみてもいですか? なんだかほとんど空気みたいな感じがしますね。
これはフィルターフォームというもので、水は保水せず抜けていきます。そのために荒めな3Dメッシュの構造をしています。まず表面の生地が汗を吸い、その内側にあるフィルターフォームで吸った汗を吐き出す。そしてさらに内側には背負い心地をよくするクッション材、EVAパッドが入っている、という構造になっています。サースフェーを紹介するうえでキーとなっていた汗処理能力の高さはそのまま継承し、ネクストではさらに雨に対する能力もプラスしました。
林
仲川
あらゆる意味で濡れに強くなったのですね。ドライがさらに進化したのか。バックパックって、傷みとかも考えるとなかなか丸洗いができなくて。でも汗は尋常じゃなくかくじゃないですか。雑菌の繁殖とかも考えて、いつも「早く乾いて欲しい~」って思ってます。
サースフェーのフィルターフォームなら保水しない素材なので、翌日までにはしっかりと汗を乾かしてくれ、雑菌の繁殖も防ぎます。縦走なんかだと、2日目以降の行動も快適です。
林
進化したサースフェーは山行での快適さをあたえてくれそうだ
アップデートした機能のもうひとつが「背負い心地」。バックパックの重心を高くしつつ、いかに体へ引き寄せるか。しっかりと背中全体で背負うことによって、抜群のフィット感がうまれ、登山で重い荷物を背負っていても疲れにくくなってくる。
仲川
バックパックの下部からウエストに出てきているストラップを引いてみてください。
林
仲川
おぉ! グググッと音がして、密着した!! すごくスムーズに引けたし、ウエストがこんなに安定した感覚って、いままでなかったかもしれない。圧迫感は変わらないのに、バックパックがグッと寄ってきました。育児をした人しかわからない例えなんですが、まったく言うことを聞いてくれなくて背中で動き回っていた子どもが、やっと落ち着いて自分からくっついてきて、運びやすくなった感じです(笑)。自分の努力じゃなく、バックパックのほうからしがみついてくれているようで、すっごい楽になります。いままでもこのストラップってありませんでしたか?
背負い心地の良さに感動!
サイドプルと呼ばれるような体に寄せる機能として、ウエストベルトの付け根あたりからストラップが出ていて、引き寄せられるようになっていました。今回、サースフェーネクストはその引き位置を大きく見直し、バックパックの正面部分に配置しました。
林
仲川
これは従来のサースフェーから、かなり変わった部分で、ミレーではこれを「ボディーフィットストラップ」と呼んでいます。
林
新機能「ボディーフィットストラップシステム」
さらにもう一つ、フィット感をよくするために必要なものは、ショルダーハーネスがどれだけ肩に沿っているか。サースフェーネクストでは角度を微調整しより良くしました。
林
仲川
本当だ。ショルダーハーネスが付いている角度が、より急になっていますね。
背負い心地を追求し、肩に自然にフィットするように改良を加えたショルダーハーネス
ボディーフィットストラップとショルダーハーネスの変更で、格段にフィット感が向上しました。ショルダーハーネスでいうと、女性用のSサイズだけは胸部を圧迫しないよう、ほかのサイズとはことなるカーブにして、背負い心地をよくしています。
林
3つ目のアップデートはパッキング。いかにストレスなく、利便性がよく、さまざまな形のものがスムーズに収納できるか。パッキングは、背負い心地と同じくらいバックパックの快適性に関わってくる。
仲川
バックパックにとって収納も重要な要素のひとつだと思うのですが、サースフェーネクストはどこか変わりましたか?
収納のしやすさが向上しています。生地が1枚になったことによって中が筒型の構造に。縫製箇所や角がなくなり、スタッフバッグなどがスルッと引っかからず入るようになりました。隙間もできにくいです。
林
仲川
角がある形だと、うまくはめていかないとデッドスペースができちゃいますよね。見ていて気になったのですが、スカート(バックパックの開口部)のあたりも変わりましたか?
バックパック開口部にある、いわゆるスカートも変わりました。サースフェーネクストは角度を付け、背面のラインに対して上向きになり、正面側が高くなっています。ここを立ち上げることによって、パッキングするときに手でグッと持ち、引き上げて詰め込みやすくなりました。
林
仲川
荷物を入れてみてもいいですか? ん! 引っかかりがないって感じわかります。自分がいつもパッキングするときにも、ここを引っ張っているってことを、いまはじめて自覚しました。すごく楽!
1枚の筒形構造になったことにより、パッキングが容易になった
容量が増えてスカートを拡張したとしても、この立ち上げのおかげで、従来のサースフェーより雨蓋をかぶせやすくもなっています。このスカート部分で5ℓですので、サースフェーネクストの容量は30+5、40+5になっています。ちなみに5ℓがどのくらいの容量かというと、ヘルメットほど。ぴったりパッキングしたうえで、きっちりと拡張部分にヘルメットが収まります。
林
仲川
スカートの色も変わってますが、これにも意味があるんですか?
拡張して雨蓋を閉じると、横からすこしスカートが見えますよね。サースフェーネクストでは同じ生地を使うことによって、デザインに統一性を持たせました。収納に関していうと、各種ポケットも進化しています。行動中など、ちょっと立ち止まるくらいの休憩中に、バックパックを下ろさずサッと何かを出し入れしたいなと思うことはありませんか?手の届く範囲に便利なポケットがあればなと。
林
仲川
そうですね。行動中、わたしの場合、 ポケットは腰にあるものだけでは足りず、胸部分にも追加で増やしてます。
サースフェーネクストはポケットの容量をかなり増やしています。まずウエストの右側にポケットがひとつ。そして左側には、マジックテープを外すと倍のサイズになるポケットがあります。広げた内側にもマジックテープがついているので、このままでも大丈夫です。最初のサイズだと行動食くらいですが、広げると大きな地図であったり、スケッチや行動記録を書くようなメモ帳、大きめなデバイスなんかも入れられます。
林
従来のサースフェーで評価の高い機能はそのまま継承されている
仲川
ちょっとしたサコッシュくらいのサイズがありますね。すぐ手に取れる場所に地図を持っていたいと思っていた人は、このポケットだけですんじゃうのか。
収納力が欲しいといっていた胸の部分に左右両方に新しくストレッチメッシュのポケットを追加しました。
林
仲川
これ、どれくらいのものが入るんですか? 手、入っちゃいますね。すごい! 500mlのナルゲンボトルまで入れられちゃいました。
最近では、お茶系のペットボトルで増えてきたすこし大きめの600mlとかもOK。片方は水分、もう片方はスマホなんていうパターンでもいいですね。
林
新たに追加されたストレッチメッシュポケットは行動中に必要なものを収納することができる
さらに、サイドのジッパーポケットにマチがついて大きなものも入るようになりました。たとえば冬の登山だと保温ボトルを持っていきたい。メイン気室に入れてもいいのですが、都度、バックパックを開けるのが面倒。このポケットであれば保温ボトルも入りますし、すこしの手間で出し入れが可能です。
林
収納力というキーワードでもうひとつ。たとえばクローズドセルタイプのマットとか、こういうのはサイドに付けるのが一般的ですよね。サースフェーネクストはマットを付けてもかなり余裕のある長さに設定しています。さらに冬に使うスノーシューとかワカンのような幅の広いアイテムはバックパックの正面に取り付けられるようになっています。
林
長めに設計されたサイドストラップにより、サイド、正面ともに道具を装着できる
仲川
スノーシューやる方にはホントにありがたい機能。日帰り雪山ハイクでもスノーシューを持っていっておこう、ってよくあるんですけど、どこに付ければいいかいつも悩むんです。これなら行動中に疲れた友人のバックパックもこのサースフェーネクストに付けられそうですね (笑)。
収納力に関して最後の1点。2気室というのは従来のサースフェーから受け継いだ機能なんですが、その取り付け方が変わっています。
林
仲川
従来のサースフェーとくらべると、ジッパーからストラップに変わっていますね。これでなにが変化したのでしょう? 下のスペースを使わないけど2気室構造を残しておきたい、っていう中途半端なときに、ここがデッドスペースになってしまうことが多くて。
従来のサースフェーと比較し、ストラップ構造になり側面に隙間が生まれ長物も収納可能に
このストラップ構造は、「完全にセパレートにならない」というのが利点です。下に荷物がないときでも、ストラップによってゆとりが出て、荷物が下に進んでいってデッドスペースを少なくしてくれます。仕切りの両サイドに隙間があることによって、長物を入れても貫通します。これで、2気室を保ちつつも長物の収納ができるようになりました。
林
仲川
いつもテントポールが中に入らなくて苦労していましたよ。この仕組み、いいですね。
1気室にしたいときはストラップを外すだけなのであっという間。従来のジッパータイプは上から荷物のプレッシャーがかかっていると、開きづらかったのですが、ストラップタイプはかんたんに解除することができます。
林
サースフェーネクストの大きな変更点はこの「ドライ」「背負い心地」「収納力」の3点です。フルリニューアルということで、各所、大幅なアップデートがされていますが、基本コンセプトは変わっていません。オールラウンドなバックパックらしく、どなたでも使いやすいものに仕上がっています。ちなみに、仲川さんが背負うとしたら何色がいいですか?
林
仲川
ん〜、 GOLD CUMIN(ゴールド クミン)ですね! 景色のなかで色を効かせているっていう状況が好きなので、映える色を背負いたいんです。この色はポイントになる色味だけれども、ワントーンくすんでいて、自然と調和してくれそう。自分の手持ちの服とも相性がいい感じがします。
お気に入りカラーGOLD CUMINを背負ってご満悦な表情
サースフェーネクストの色はDEEP RED(ディープ レッド)や、Sサイズ限定のHYDRO(ハイドロ)もすこし落ち着いた色に仕上げていて、コーディネートしやすくしています。
林
仲川
撥水性だったり、どんどん機能性を求めていくとスポーティーな感じになっていくイメージがありますが、洗練されたクリーンな見た目にこの刺繍があるおかげで少しナチュラルな柔らかさがプラスされる気がします。自然のなかに行くときに、この刺繍が気持ちへ寄り添ってくれそうです。すごく山に行きたくなってきました!
(文=河津慶祐 写真=Chica Suzuki)
今回「聞いてみた」気になるアウトドアギア
ミレー(Millet) SAAS FEE NXシリーズ